われらが銀山湖は一時ひどい不振に陥ちこみ、名物のジャイアント・イワナはことごとく小人となりました。数も減ってしまって、水に映るのは釣師の歪んだ顔だけというありさまでした。これではいけないと、釣師や村民が協力しあって孵化場を設けて稚魚を放流するやら、禁漁期と禁漁区を設定するやら、監視をきびしくするなど、この九年間、思いつけるかぎりの努力を払ってきました。おかげで秋の産卵期には昔のようにみごとなイワナが北之又川にのぼってくるようになり、その数も着実に増えつつあります。

 しかしこのあたりも新幹線が走り、高速道路が開かれるなど、たいへん便利になり、釣師の数もまた季節を問わずめっきり増えました。ここで手をゆるめるとふたたび乱獲、不振、不毛に落ちこみます。それは火を見るより明らかなことです。眼に見えることです。人間が一歩進むと自然は音もなく二歩後退します。この立派な水面を守るために、みなさんの御協力を仰ぎ、もう一度、力アレバ力ヲ、銭アレバ銭ヲ、と申し上げたいのです。

 お願いします。

開高 健

(昭和58年4月 会報より)


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さて、