・・・私たちは、この一文を胸に活動しています。
釣師はやたらと会をつくる癖があり、それがまた分裂しやすいというのも特徴のようですが、今度、志ある人びとが集まって、これだけはどんなことがあっても分裂させないぞという決意のもとに、次のような会を設立することになりました。
只見川は尾瀬を水源として出発し、沢山の渓流を集めつつ流れて大きくなり、銀山湖(奥只見湖)、大鳥ダム、田子倉湖など、いくつもの広大で深いダム群をつくり、今日までにおびただしい数の釣師を全国からひきよせました。その神話時代にはサケぐらいもあるイワナやニジマスがよく釣れたものでした。
けれど、神話は数年もたたないうちに衰えてしまいました。釣師の数が急増し、みんながぶったくりで釣りまくった結果、いまではネコの朝飯のような小魚しか釣れなくなりましたし、数もひどい激減ぶりです。山も川も荒廃の一途をたどるわが国の顔がまざまざと見られます。
ここで行動にでなければ、と私たちは決心いたしました。湖と川をよく調査したうえで餌になる小魚を放流したり、毎年イワナやマス類の稚魚を放流したり、引数制限、体長制限をするなど、どこの国でもやっていることをやるまでのことなのですが、それを口さきでなく実践に移したいと思うのです。地元の奥只見の旅館組合や魚沼漁協銀山支部の人たちも声をそろえて賛同し、一つに大同団結して協力しようと申し出ておられます。 「賢者は海を愛し、聖者は山を愛す」という言葉もあります。四月下旬に発起人総会を開催いたしたく存じまが、御理解と御協力が頂けたらと存じます。
これはとりあえずのごあいさつです。
昭和五十年四月三日
開高 健
(S50.4.25の発起人総会(設立総会)に際した呼びかけ文より)